人と住まいのコラム
「家づくりのホンネ」が紹介する木造住宅における構造計算の重要性

木造住宅にも採用されている構造計算とは

イメージ
土地選びのキホン

ビルでもマンションでも建築物と呼ばれるものの大半は「構造計算」に基づいて設計されています。なぜなら建物に関する綿密な計算がなされていないと、地震や台風、荷重などに対して安全性を確保できないからです。実は2階建てまでの木造住宅では、建築基準法では構造計算を義務化されていませんが、近年では義務ではない住宅においても構造計算を取り入れようする機運が高まってきています。こうした動きにはどのような背景があるのでしょうか。

構造計算は建物の安全性を高める手段

構造計算とは、建築物、土木構造物自体の荷重(固定荷重)や積載荷重に加え、積雪や風が生じた際の荷重、地震発生時に生じる荷重などに対して、構造物がどのように変形するのか、物体内部に発生する抵抗力の計算です。構造物がどこまでの変形や形状を保とうとする抵抗力に耐えられるのかも構造計算によって導き出すことができます。ビルも橋も道路も、この構造計算なしには安全性を保つことはできません。

たとえば、橋をイメージしてください。橋の構造が橋自体の重さに耐えられるように設計するのは当然ですが、車や人が通過しても安全であるという本来の役割を果たすには、その強度だけでは到底足りないでしょう。仮に車や人の往来を耐えたとしても、地震や台風などで揺れなどの大きな力が加わることで構造に疲労が生じ、最悪の場合は力が加わった部分が破断しかねません。このように、さまざまな状況を想定して構造物の安全性を担保しようとするのが構造計算なのです。

この構造計算は非常に複雑で、昔は手計算で行っていましたが、時間がかかり、ミスも生じやすいことから現在ではコンピュータと専用ソフトを用いて計算するのが一般的になっています。また、より複雑な計算にはFEM解析(有限要素法/ Finite Element Method)と呼ばれる手法が用いられることもあります。FEMは、微分方程式を近似的に解くための数値解析であり、構造力学や流体力学などのさまざまな分野で使用されている方法です。

建築基準法では必須ではない構造計算

先ほどの橋のケースを、住宅に当てはめるとどうでしょうか。住宅そのものの自体の重さに耐えるだけでなく、その中にある家具や設備、そこに住む人の重さにも耐えなければなりません。また、日本で頻繁に発生する地震、台風にも耐えるだけの強度が必要です。さらに、豪雪地帯ともなれば屋根の上に積もる雪の量は何百キロという単位にもなるので一層の強度を確保しなければなりません。

そうした、あらゆる荷重や力に耐えるだけの設計かどうかを知るには、木造住宅とはいえ本来なら構造計算が不可欠なはずです。しかし、現在の建築基準法で、構造計算が義務付けられているのは、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の住宅であり、木造でも3階建て以上になります。代わりに「耐力壁」の使用量を合算して建築基準法に適合しているかどうかを算出する「壁量計算」が用いられていますが、これは非常に簡易な方法であり、構造計算のように厳密な結果を求めることはできません。

たとえば、地震や台風の多い地域に家を建てるような場合は、建築基準法で定められているよりも耐震性や耐風性に優れた設計にしたいと考えるのはごく自然です。また、階に浴室など水回りを計画している場合や、400kgもあるグランドビアノを置くといった場合は、通常の壁量計算では十分な強度を確保できないこともあります。こうした場合は、建築家など構造計算に精通した専門家に相談する必要があるでしょう。

木造2階建てでも構造計算が新たな基準

最近では、自宅の設計に構造計算を導入しようという方が増えており、一般の工務店、ハウスメーカーでもこうしたニーズに応えるところが出てきています。理由はやはり地震や台風など災害に強い家を求める機運が高まってきているからに他なりません。今後、南海トラフ巨大地震、首都直下型地震の懸念はますます大きくなるばかりであり、近年では台風の巨大化や爆弾低気圧などの発生で、強風への対策をどう図るかも大きな課題になりつつあります。

このように、多くの災害が想定されるわが国では、家族の生命、財産を守るために家の強度をどう高めるかといったことに以前から関心が払われていますが、今後は前述のような理由から、木造2階建ての住宅であっても構造計算を取り入れた設計が不可欠となるでしょう。

今、日本では、地震にしても台風にしても、過去にはない巨大災害が次々と発生し、その都度、列島に大きな爪痕を残しています。これから家を新築する場合は、起こり得るすべての可能性を想定して、十分に対策することが肝心。それには、やはり構造計算に基づいた厳密な設計が必要でしょう。

この記事が気に入ったら
お気軽に共有してください

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE